赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「前王妃が心を許す人間は息子のアルファス様を除いてスヴェンと君だけだ。そしてスヴェンも物腰はやわらかいが、滅多に人を信用しない。つまり君は、この城で最も危険な立場にある人間の特別な存在になってしまったということだね」
そう言ったウォンシャー公爵の顔は常に笑顔なのだが、その裏には言いしれない不穏な影が潜んでいるように思える。
それが自分にとって害のあるものなのか、そうでないのかはわからないけれど、今はただ目の前の彼が不気味に思えてしかたがない。
シェリーは警戒するように長身のウォンシャー公爵を見上げて、単刀直入に聞く。
「なにが言いたいのでしょうか」
「脅しているわけじゃないんだ。君は非常に危険な世界と隣り合わせなんだってことを忠告したいんだよ」
「その危険が、私にはわかりかねるのです」
「じゃあ、君の周りでおかしなことは起きていないかい?」
「おかしなこと……」
言われてすぐに脳裏に浮かんだのは、薔薇の花だった。
初めは自分の部屋の前に落ちていた一輪の青い薔薇。続いて城の玄関前の広間に散っていた紫の薔薇の花びら、黄薔薇とナイフ。
町へ出かけた際には道化師の男が『我々は必ずや成し遂げる。ギュンターフォード二世、その王座を必ずや散らせよう。平和はこれで終わりを告げるだろう』という謎の言葉とともに現れたこと。
そして誰かに贈るには不釣り合いな意味を持つ、前王妃の部屋の花瓶に生けられていた三本の黄色い薔薇と一本の赤い薔薇。思い返せば、おかしなことはたくさんあった。
表情を曇らせて思案顔をするシェリーに、ウォンシャー公爵は「心当たりがあるようだね」と言う。
でも彼を信じていいのかがわからず、話すことは躊躇われた。自分のせいでアルファスやスヴェン、前王妃を危険に晒してしまったらと思うと迂闊に発言できず、唇をギュッと引き締める。
「まあ、俺のことを信用しろというのは難しいか。でも俺は自分の下で働く者たちのためにも危険を回避する義務がある。だから独自に調査しているだけだよ」
「ウォンシャー公爵……」
確かにシェリーを利用しようとしているなら、わざわざ忠告したりはしないだろう。警戒されてしまうし、近づきにくくなるのは明白だ。
でも今ここで彼を信用に足ると判断できることではないし、慎重にならなければならない。そう思ったシェリーは曖昧に微笑んで「肝に命じます」とだけ答えた。
するとウォンシャー公爵はへらっと笑って、シェリーの肩に手を乗せる。