赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「君は聡い女性だね、慎重なくらいがいいよ」
こうして笑っているところを見ると、やはり悪い人には見えないから困る。眉尻を下げながら、ウォンシャー公爵を見つめていると――。
「シェリー、ここにいたのか」
背後からかかった声に振り返ると眉間にしわを寄せ、険しい顔をしたスヴェンが立っていた。
普段の優雅な動きからは想像もできないほど大股でズカズカと近づいてきた彼は、あきらかに機嫌が悪そうだ。
「外は暗いし、危険だ。城の中とはいえ、無防備に歩き回るものではないぞ」
彼の咎めるような視線が、シェリーの肩に乗るウォンシャー公爵の手に向けられる。
「スヴェン様……申し訳ありません。少し、外の空気を吸いたくなって……。たまたまウォンシャー公爵と会ったものですから、つい長話をしてしまいました」
「いいや、お前から目を離した俺に非がある。それより、その手を放してもらええないだろうか、ウォンシャー公爵」
鋭利な眼光を放つガーネットの瞳に射すくめられたウォンシャー公爵の顔は、笑みを浮かべながらも強張っているのがわかる。
この地で最も強い人間である男に睨まれて、平静を保てる人間などいないだろう。
「それは、お安い御用だよ」
パッと手を放したウォンシャー公爵は、かけられた疑念を晴らすように両手をあげた。
解放されたシェリーが戸惑うようにふたりの顔を見比べていると、スヴェンと目が合って強引に腰を引き寄せられる。
「こんなことなら、お前を手放すんじゃなかったな」
耳元で誘うように囁かれて、シェリーは息を詰まらせる。手放すというのは、さきほどのダンスの誘いのことだろうか。
「随分と気に入っているようだね、彼女のこと」
ウォンシャー公爵が楽しげに声を弾ませると、スヴェンの眉間のしわが深くなる。
「わかっているなら、誘惑しないでほしいのだが?」
「あっ、スヴェン様っ」
腰に回った腕がさらに強くシェリーの体を抱きしめる。
口調こそ余裕そうではあるが纏う空気は張りつめており、威圧感がビリビリと肌を刺しているのを感じた。
ニヤリと口角を吊り上げる彼の顔を見上げたら危うくも艶やかな瞳に目を奪われ、心臓が高速で脈を打つ。