赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「このようなっ、お戯れを……ひどいですっ」
両手で口元を覆い羞恥に耐えながらうつむくシェリーの体は、瞬く間にスヴェンの腕によって抱きしめられる。
「戯れなどではない。わからないか? 俺がウォンシャー公爵に嫉妬し、お前に口づけたその意味が」
「そんなの……信じられません」
戯れでないとしたら、彼が自分に恋愛感情を抱いていることになる。
彼を好いている身としてはうれしい話だが、それを信じろだなんて無理な話だ。
「俺はお前に惹かれている」
「なっ――」
呼吸が止まりそうだった。
彼のような高貴な存在に見初められるなんて、ありえない。さきほど聞こえたのは、願望が生んだ幻聴だったのではないだろうか。
現実を受け入れられずにいると、自分に向けられる熱い視線に冗談で言ったのではないと気づかされる。
「私はカヴァネスです。あなた様に想ってもらえるような身分の人間ではありません!」
「ということは、お前も俺と同じ気持ちということだな?」
期待を含んだ声と懇願するような瞳に、息が苦しくなるほどの動機に見舞われた。
「それはっ――」
「お前の壮絶な生い立ちからは想像できないほど凛とした姿、母のように慈愛に溢れた眼差し、どんな立場の人間にも臆することなく真摯に接するお前がどんな女より尊く見えた」
熱烈な思いのたけをぶつけられて、心のままに彼に応えてしまえたらと思う。
けれどその一線を越えてしまえば、彼に相応しい縁談がきたときに、飽きられて捨てられてしまったときに立ち直れないだろう。
「まぁいい。これから時間をかけて、お前の心を手に入れてみせるさ」
「あっ……」
唇を親指で撫でられて、フッと笑われる。
心を手に入れてみせるなんて、引き返せなくなってしまいそうで怖い。もうすでに奪われているというのに、彼はこれ以上なにを手中に収めようというのだろうか。
「シェリー、さきほど叶わなかったダンスを俺と踊ってはくれないだろうか。仕切りなおさせてほしい」
「ダンス、ですか?」
スヴェンは聞き返すシェリーの前で片膝を折ると、誘うように手を差し出してくる。
「そうだ。ミス・シェリー、この手をとってくれるか」
この手をとってしまえば、もっと彼に惹かれてしまうというのに近づきたい衝動を抑えきれなかったシェリーは抗えなかった。