赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「そういうお前だから、俺は心惹かれるのだろうな。だが悪いな、お前が危険に巻き込まれるのだけは許せないのだ。そのためなら、どんなに危険なことでも厭わない」
「スヴェン様……」
きっと、なにを言っても彼は自分の意志を曲げないのだろう。それがわかっているから、シェリーは泣きそうになりながらも首にかけていた首飾りを外す。
ローズ家の紋章と薔薇が彫られた、父の形見だ。
「シェリー、それは?」
「これは私のお守りなんです。ひとりになってもここまで頑張ってこられたのは、この首飾りのおかげでしたから、スヴェン様のことも守ってくれるはずです」
彼の首に下げようと両腕を伸ばすと、逆に腰をかがめて頭を下げてくれる。
シェリーはお守りを彼の首にかけ、装飾を両手で掬うように取ると薔薇の彫刻に口づけを落とした。
「スヴェン様が無事でいられますように」
「お前はやはり、いい女だな。俺を喜ばせて、どうするつもりだ」
彼の手に頬を包まれ、上向かせられる。
切なげに下がる眉と陽だまりのように優しい眼差しが向けられて胸が高鳴ると、やはり彼が好きなのだと思い知らされた。
「ますます、お前の心も体もすべてが欲しいと思う」
「もう、またそのようなことを言って……でも、本当に無茶だけはなさらないでください。私のところに帰ってこなかったら、呪いますよ」
冗談を言えば、スヴェンは肩を震わせて豪快に笑った。
「シェリーになら呪われてもかまわん。だが、ひとりで泣かれても困るからな。必ずお前の元の帰ると、騎士公爵の称号とセントファイフ家の名、そして俺個人に賭けて誓おう」
スヴェンの顔が近づいて、額に唇が押しつけられる。
恥ずかしさよりも、この温もりが永遠に自分のもとに帰ってこなかったらと思うと胸が切なくなる。
「そうですよ……スヴェン様までいなくなったら、泣きますからね」
涙交じりの声が震えた。
もう見ることの叶わない両親の笑顔が、閉じた瞼の裏に滲んでは消える。
スヴェンは華奢なシェリーの体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。
「俺はこの国の剣だ。簡単にはくたばらんから、安心しろ。お前をひとりになどしない」
「はい、信じてます」
彼の胸に縋り付いて、頬を擦り寄せる。
耳元で規則正しく刻まれる鼓動に安堵しながら、この温もりが消えぬようにと願った。