赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「アルファス様は、姉か母を取られたような感覚なのでは?」
「気を抜くなよ、シェリー。男は何歳でも男だ」
「そ、そうなのでしょうか?」
腕組をして横目にこちらを見るスヴェンの顔はやけに真剣で、思わず目を伏せる。凛々しさが増して見えて、照れてしまったからだ。
「アルファス様もここへ呼ぶように使用人に伝えておいたのだが、遅いな」
スヴェンは壁掛けの時計を見て、訝しげに眉間にしわを寄せた。
シェリーも時計に目を向けると、ここに来てから三十分が経っていることに気づく。
「私、馬車を待たせているので、あと一時間で城を出なければならないのです。お逢いしたかったけれど、叶わなければこのマドレーヌをお渡し願えますか? 前王妃様と一緒に食べてもらえたらと多めに作ってきているので」
カゴに残りのマドレーヌを見つめながら、残念な気持ちでスヴェンに頭を下げる。
本当はアルファスが元気にしているのか、様子も見たかったのだが仕方ない。あと一時間して部屋にこなければ、お暇しようと考えているときだった。
「セントファイフ公爵様、急ぎお伝えしたいことがございます!」
扉の向こうから、切羽詰まった声が聞こえてくる。 ノックするのさえ忘れてしまっているところを見ると、かなり焦っている様子だ。
スヴェンが「入れ」と声をかけると、勢いよく扉が開け放たれる。
「国王陛下が投獄されました」
「……な、んだと?」
騎士の報告を受けたスヴェンは、ソファーから勢いよく立ち上がる。ツカツカと騎士に歩み寄ると、「どういうことだ」と問い詰めた。
「アリシア前王妃様に毒殺を図ったとのことで嫌疑にかけられ、大公殿下のご指示で投獄が決まったのです。刑罰はこらから議会にて決定すると――」
「ふざけるな! 大公殿下の独断で国王を投獄するなど許されん!」
騎士に向かって怒号を浴びせるスヴェンは、悔しげに拳を握りしめている。
アルオスフィア一の強さを持つ男に睨まれた騎士は恐怖のあまり足を震わせており、見かねたシェリーがスヴェンの手を握った。
(落ち着いて、スヴェン様)
心の中でそう語り掛ければ、繋いだ手からシェリーの気持ちが伝わったのか、スヴェンは「すまない」と小さく呟いて瞳に冷静さを取り戻す。