赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「実の母君を陛下が毒殺とはどういうことか。詳しく話せ」
「は、はっ。一時間前、陛下が前王妃様に青薔薇を贈ったのですが、棘に毒が塗られていたらしいのです。誤って指に刺さしてしまった前王妃様が、お倒れになってしまって……」
無邪気に微笑むアリシア前王妃の顔が頭に浮かんで心配になったシェリーは、差し出がましいと思いながらも口を挟む。
「前王妃様はご無事なのですか?」
「一命はとりとめたのですか、まだ目を覚ましておられません」
「そうなのですね……」
騎士の口から目覚められていないと聞き、心が沈む。
なにより、アルファスのことが気がかりだった。自分が贈った薔薇のせいで母親が生死の境を彷徨ったとなれば、自身を責めていることだろう。
ただでさえ即位式が中止になって気落ちしているというのに、立て続けに問題が起きているのだ。
投獄されてしまったアルファスを思うと胸が痛む。
「犯行に使われたのも城の庭園に咲く薔薇であったことから、国王陛下のご乱心だと城内では噂されています」
「おふたりの思い出の薔薇に、アルファス様が毒を塗るとは思えないです。その薔薇は、本当にアルファス様がお摘みになられたものなのですか?」
アリシア前王妃が植えたという青薔薇には祝福ある人生を、どんな困難の前でも奇跡を味方につける力を、不可能を成し遂げる強さをアルファスが授かるようにという願いが込められている。
それを知ったアルファスは、本当にうれしそうな顔をしていたのだ。
だから絶対に、母を手にかけるようなことはしないはず。
カヴァネスの証言だけではなんの力にもなれないかもしれないが、アルファスの人となりはよく知っている。
絶対に自分だけは彼の無実を訴えようと心に決めたとき、また扉がノックされる。
「スヴェン、失礼するよ」
部屋の主の許可を待たずに入ってきたのは、ウォンシャー公爵だった。
「その顔は、状況は理解したようだね」
ツカツカと側にやってきたウォンシャー公爵は、この緊迫した状況でも飄々とした態度を貫いてソファーに腰掛ける。