言い訳~blanc noir~
 そして玄関ドアを閉め、駐車場に向かったところで車の鍵がない事に気付き、部屋にもう一度戻る事になってしまった。


 インターホンを鳴らすとすぐに扉が開き、沙織が驚いたような表情を浮かべていた。


「車の鍵、忘れたんだ」


「ああ! そうだったんですね。取って来ます! ちょっと待っててくださいね」



 沙織が部屋に戻ると、ちゃらちゃらと鍵の音を響かせ戻ってきた。


「はい、どうぞ」と沙織に渡された鍵を手のひらで受け取る。



「ありがとう」



 すると沙織が和樹の背中に両腕を回し、胸に顔を埋めた。

 そっと髪を撫でる。


 和樹の胸に顔を埋めたまま、沙織が言った。



「ねえ、ご主人様」


「うん?」



 窓際で日向ぼっこをするクロのように目を細めながら、沙織が和樹を見上げる。



「私の事、愛してますか?」


「今日はやけに甘えん坊だね。どうしたの?」



 いつもは「大好き」という言葉を使う沙織にしては珍しく「愛してる」と訊ねられ、ほんの少しだけ驚いてしまった。



「愛してる?」


「愛してるよ」


「どれくらい?」


「うーん。うまく言えないけど、沙織さえいれば何も欲しいものはないくらい愛してる」



 そう伝えると、沙織は満足そうに笑みを浮かべ、和樹にちゅっと音を立てキスをした。

 もう一度沙織を胸に抱き、「愛してるよ」と和樹が囁く。

 なぜ今日、休みじゃないんだろう。後ろ髪を引かれるほど、沙織と一緒に過ごしたかった。

 そうは言っても仕事にいかなければならない。


「よし行くか」と和樹が口にする。

 沙織が「はい」と笑顔で返す。



「いってらっしゃい」


「いってきます」
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