言い訳~blanc noir~
 目の前に真っ白なフィルターを掛けられたかのように意識が揺らぎ遠のいてゆく。

 自分が呼吸しているのかすら感じることができない。

 嘘だろ? これ嘘だよな?

 さっき、ほんのついさっき沙織と話したばっかりじゃないか。

 今夜すき焼きなんだろ?

 何なんだこれ、何の嫌がらせ電話なんだよ。


「椎名さん!! 大丈夫ですから!! 沙織さん絶対に大丈夫ですから!!」


 そう誰かが言った。その声が誰なのかわからない。


「椎名!! 俺が連れて行くから、ほら立て!!」

 佐原の手が強引に和樹を立ち上がらせる。力が入らない。足元から崩れ落ちそうになる和樹を佐原が支えた。

「―――佐原さん……沙織に電話してもいいですか?」


 和樹が携帯電話を拾い上げる。


「椎名しっかりしろ!! とにかく病院へ急ごう!! お前ら、後の事頼むぞ」


 佐原の車に乗せられ病院へ向かった。ここまでどうやって歩き、車に乗り込んだのかすら記憶がなかった。窓を滑りゆく見慣れた街並み。それなのに自分が異世界に飛ばされたかのように現実味がない。

 固い面持ちでハンドルを握る佐原が言った。


「椎名、顔を伏せろ」


 運転席から伸びた佐原の左手で視界を覆われた。が、その隙間から目に飛び込んできた。

 道路に散らばったガラスの欠片。

 そして、まるで大量の苺ジャムを撒き散らしたかのように道路が真っ赤に染まっていた。


「何なんだよこれ!!」


「大丈夫だ!! 絶対に大丈夫だから!!」


 沙織。

 沙織。


 沙織―――



「沙織……」
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