言い訳~blanc noir~
 それから1ヶ月後の4月初旬。

 沙織がこの世を去りちょうど6年目にあたるその日、沙織が眠る寺院で七回忌の法要を終えた。ぬけるような青空が広がり、春風がそよぐたび咲き始めたばかりの桜の花びらが、ふわり、ふわりと舞っていた。


「沙織、クロがそっちに逝ったよ」

 寺院を出てすぐの駐車場。和樹は天を仰ぎながら呟いた。

 1週間前クロの容体が悪化し病院に連れて行くともう手の施しようがないと告げられた。心筋症が発覚した日から約半年。日課のように1日2回必ず薬を飲ませてきたがやはり病は少しずつ進行していた。


 そして3日前の夜―――。

 クロは静かに息を引き取った。

 本当に眠るように静かに、そして穏やかに。

 人の命をロウソクのともしびで例える表現を何度か耳にした事があったが、クロの死というのはゆらゆらと小さく揺れているロウソクの炎がふっと息を吹きかけ消えるかのようだった。

 沙織が逝った日から6年。クロは確かに生きていた。

 クロの「にゃあ」という甘えた鳴き声が今も耳にしっかりと残っている。柔らかな体も、クロの温もりも、真ん丸な緑色の瞳も。

 だが、クロはもういない。

 目を閉じると沙織がクロを胸に抱き、にっこりと笑っている姿が浮かんだ。

 ようやくクロは沙織に会えたんだ。

 そして沙織もようやくクロを抱く事が出来たんだ。

 そう思う事で自分を慰めるしか術がなかった。

 ただ一つ、和樹の胸の中に留まる思いがある。

 それはずっと心配してくれていた毛玉に、クロの死をどう伝えるか。

 それだけが気がかりだった。
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