キミに嘘を吐く日
「アンタのことばかり気にするアイツに、アンタが他のヤツにとられちまったらどうするんだって」

「えっ、そんな……私は」


私は、宇野くん以外の人を好きになったりしないのに……。


「アンタがどーのってことじゃなくてさ、あんまり潔く戦線離脱するらさ、ちょっと意地悪したくなったんだよ」

「で?宇野はなんて答えたの?」


答えを急かすように市原さんが高田くんを肘でつついた。


「『……どうにもできない。だけど、悔しいよな』だって。御門の良さを知っているのが自分だけじゃないってことが悔しいって言ってたよ。なら、あっさり譲らずに捕まえればいいじゃんって言ったけど、あいつ黙ったままだった」

「宇野ってヘタレだね」

「おまえなぁ……男ってのは結構繊細にできてんだからさ。ヘタレとか言ってくれるなよ」


苦笑いしながら高田くんは小さく溜め息を吐いた。


「……早く宇野くんに会いたい、な」


会って話がしたかった。宇野くんに自分の気持ちを伝えたかった。

もし迷惑でなかったら、受け入れて欲しいと思う。

でも。

一瞬、高田くんの話を聞いて過った一抹の不安。

もし、宇野くんに他に好きな人ができていたら?

自分が勝手に想像したことなのに、それがもし現実になっていたらと考えると急に怖くなった。

私は今でも宇野くんが好きだけど、これからもきっと好きで居続けると誓えるけど、それを宇野くんにまで求めるのは間違っているから。

もしこの不安が現実のものになっていたら、私は一体どうするんだろう?


「そろそろホテルに着くよ」


森さんの言葉に窓の外を見ると、海岸沿いに建つ真っ白な外壁のホテルが見えてきた。
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