【短】桜の涙に恋焦がれ

「じゃあ場所取り完了してるから。後でみんなをここまで案内してくれる?」

「それはもちろんです」

「じゃあ、後でね」



 これ以上引き止めてはいけないと、出来るだけ穏やかに柳瀬くんを送り出す。


 彼もさすがに長居しすぎたと思ったのか、そそくさと戻る準備をする。



「じゃあ、咲川さん。後で」

「うん」



 傘をさして去っていく柳瀬くんの背中を見ていた。


 黒い傘に張り付く桜の花弁が綺麗。真っ黒だった心がピンク色に染まっていくみたい。


 遠くなっていくその姿。あっという間に人に紛れて見えなくなってしまった。



「柳瀬くんが好きです」



 桜が勝手に涙を流すから、わたしの本音も零れた。


 桜の木の下。
 今日あった出来事が霞んで消えてしまうのが怖いから。


 花見なんてイベントが延期でありますように。
 今日ばかりは願わずにいられなかった。



 END


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