雨女と机



昼とはうって変わって静かな空間。


やけに扉を開けた音がどこまでも響いていった。


そしてわたしは教室と廊下の間にそのまま立ち止まっていた。


わたしの席のところに、誰かいる。


目が、合った。


「あ、こんにちは、いや、もう外は暗いからこんばんは、かな」


その人はちょっと低めの優しい声でわたしに言った。


「え、あ、こんばんは」


思わず戸惑っているのが丸わかりな声で返事をしてしまう。


わたしの机に手をついて立っている制服姿のその人は、またわたしの机に目を戻した。


ひょろりと背が高くて細い人だな、と思った。

上靴の色からして3年生だ。


黒い縁の眼鏡の奥。


何となくわたしはこの人が凛だ、と確信した。


「どうしたの? 忘れ物?」


突然彼は机に目を向けたまま問いかけてきた。


「あ、は、はい」


そして、


「あの、」


何を思ったか自分でもわからなかったが、わたしは自分の前の言葉に言葉を繋いだ。


次に何て言おうか黙ってしまったわたしのほうに彼は顔を向けた。


「きみ、さっき図書室のカウンターにいた子、だよね?」


「あ、はい、図書室にいたんですか?」


「うん」


そして、沈黙。


わたしは立ち止まったまま。


「あ、俺なんでここにいるんだよって感じだよね」


また突然話しかけてきた。


「え、そんな」


とっさに答えてしまったが、そんなこと思わない人なんていないと思った。


「ねぇ」


急にまた話しかけられた。


「ここの席の子、名前、なんていうの?」


「……え?」


え? やっぱり知らなかったのか。


何だか少し残念に思ってしまったわたしがいた。


「えーと、出席番号14番の人」


椅子に貼ってある出席番号のシールを見ながら彼は言った。


わたしがその席の人を思い出しているように見えたのか、さっきの通りの優しい声。


「えっと、そこは、」


もういいや、と思った。


「湯川咲良、です」


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