雨女と机
言った。
言った。
フルネームを答えたわたし。
名札なんてないんだから、気付かないでしょう。
「……へぇ、素敵な名前だね」
何て言って、彼はいつの間にか片手に持っていたシャーペンで、湯川咲良の机に何かを残していった。
「まぁ、勝手ながら俺はこれで帰るね」
そう言って肩に掛けていたリュックを背負う。
「あ、」
わたしとすれ違いながら彼は。
「このこと、咲良さんには秘密がいいな」
「……はい」
じゃあね、と手を振りながら遠くなっていく背中。
また雨音だけの空間に戻る。
しばらく、ぼーっと立ったままだった。
どうしたものか、この気持ち。
どこか心残りな気がした。
とりあえず自分の机をのぞくことにした。
「あっ、」
思わず声が出た。
机の雨が止んでいた。
(ありがとう。)
うさぎはそう言った。
虹がかかった。
黒色と机の色、2色しかない虹だけれど猫は泣き止んだ。
窓の外は雨、わたしの机は晴れた。