エリート上司の甘く危険な独占欲
(でも……私が柊一郎さんに振られたのは事実で……部長と一夜を過ごしたことも紛れもない事実なんだ)

 華奈は颯真に気づかれないように、静かにため息をついた。

(「好き」の言葉も「付き合おう」の言葉もなく今まで来ちゃったけど、これってやっぱりこれで終わりってことだよね……?)

 正直なところ、颯真の腕に抱かれていると、悲しいことを思い出すヒマなどなかった。そのくらい、昨夜の彼は情熱的だった。

 余裕をなくした彼に切羽詰まった表情で見下ろされたことを思い出し、背筋にしびれるような感覚が走る。このまま体の関係を続けて彼に溺れていけば、惨めな失恋など跡形もなく忘れることができるかもしれない。だけど、心を伴わない関係にきっと未来はない。柊一郎に言われたように、また『付き合うには最高の女』になってしまうだけだろう。

 だが、冷えた華奈の体を温め、傷ついた心をいたわってくれた彼の優しさを思い出すと、胸がギュウッと締めつけられる。

(ダメだよ、部長は『来る者拒まず、去る者追わず』の『独身主義者』で、私と『共通項が多い』って思ってるんだから)

 自分で自分の気持ちを戒める。
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