エリート上司の甘く危険な独占欲
(ワンブロック先の喫茶店に行ってみようかな。あそこなら若い女性社員はあまり来ないだろうし)

 華奈は一階に下りて、裏通りにある喫茶店を目指した。昔ながらの喫茶店、といった店構えで、同じく若い女性社員である華奈も入りにくい。

(別のお店にしよう)

 華奈が歩き出そうとしたとき、前からスーツを着た二人組の男性が歩いてきた。そのうちの一人が「あれっ」と声を発した。

 不思議に思ってそちらを見た華奈は、驚いて目を見開いた。チャコールグレーのスーツを着たその黒髪の男性は、大学時代に付き合っていた健太だった。

(嘘……)

 あの頃の健太はもう少し線が細い感じだったが、今は顎もしっかりして、体つきも逞しくなっていた。

「華奈だよね?」
「うん……」

 嫌な別れ方をしてから八年近く経っている。華奈はどういう顔を作ろうか迷ったが、健太の方はにっこりと笑顔になった。

「久しぶり」

 華奈はぎこちなく微笑む。

「ホントだね……。大学を卒業して以来だから、四年ぶり?」
「そうだね。もうそんなになるのか」

 健太は懐かしそうに目を細めて華奈を見た。
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