あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
────ガシャン!
おばあちゃんが持っていた昼食がお盆ごと床に落ちる。
おばあちゃんが近寄ってきて、手をあげられた。
私は咄嗟に目を瞑る。
でもその手は、優しく私の背後に回って、私を強く包み込んだ。
「お願い…お願い光希歩ちゃん。死なないで。もうこれ以上、家族を…失いたくないの。わたしの…大事な大事な家族を」
その声は震えていて、おばあちゃんは泣いているのだとわかった。
「学校に行かなくてもいい。この家でご飯を食べて、お風呂に入って、それだけでいいの。それだけでいいから…生きたくないだなんて、言わないでちょうだい…」
…忘れていた。
おばあちゃんも、残された人々の内の一人だということを。
おばあちゃんは離婚をした。
だから尚更、お父さんのことを愛しい息子だ と思っているに決まっている。
その愛しい人が、いなくなった。
最後に会ったのは、あの日が起こる二年も前のこと。
だから愛する息子の子供である私たちが、大切なんだ。
私が死んだら、おばあちゃんは今の私と同様、また残された人になるんだ。
私は残された人の辛さを知ってる。
死ねない。
いずれ死ぬとわかっていても、まだ死ぬことなんてできない。
「ごめん…ごめんなさいぃ…」