あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

おばあちゃんのエプロンに涙の跡がいくつも残る。

二人でたくさん泣いた。

前を向き、再び歩むことはできなかった。
それでも、生きようとは思った。
ただ生きているだけでいいと、言ってくれた人がいたから。
この短い言葉で、私は救われた。

だから私は生きることができた。

学校には行かなくなった。
学年が変わっても、先生は何度も家に来た。

私はその度に隠れた。
怯えた。
またあの教室に連れて行かれるのかと思うと怖かった。
おばあちゃんが苦笑いをして部屋に入ってくることが、先生の帰った合図となっていた。

外に出ると、義足のことを白い目で見られそうで、一歩も出ることができなかった。

海光の幼稚園の送り迎えもできなかった。

そんな私に、おばあちゃんは一緒に家事をやろうと言ってくれた。
たくさん手伝った。
家事が生きがいになるほど、私は家のことをするのが好きになった。

ゴミ捨てでベランダに出ることも、最初はできなかった。
みんな私を見たら見下してくるから。
でも、一度だけベランダに出てみた。
そこは快楽な場所だった。

私を見下してくる人々を、物理的に見下すことができる場所。

ここが私の唯一の外の世界だった。

ゴミ捨ての時間。
快楽なこの場所は、時に私の心をあの日に戻す。
辛い日ではなく、楽しかった日々に。
でも、楽しかった日々の裏に、必ず見える辛い記憶。

それを消すために歌った。
この時が永遠に続くように。
これ以上、大好きな思い出が消えないように。
だからこそ〝明日が来るわ〟とは歌えなかった。

それでも。

いまこの瞬間がやってきたように。
時は私の想いを置いて、ここまで進んできた。
そして、これからもずっと。

私が死んだその後も、進んで進んで、やがて、今あの日の出来事が忘れかかっているように、人々の記憶から消えていくんだ。


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