あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。


また一年が過ぎたんだ。

あれから何年経ったんだ?

確か…八年か。

八年前まで、光希歩は自分の誕生日を喜ぶことができていたのだろうか。

それとも、昔からずっと辛かったのか。

その理由が今日聞けるかもしれない。

光希歩は自分のことをあまり話そうとはしないため、俺は今まで不登校のことや家族構成、歌の続きなど、あまり聞くことができなかった。


それも今日、変わるかもしれない。

今よりずっと近づけるかもしれない。


今日の塾は九時半の授業終了とともに帰ろう。


そんなことを考えていると、いつの間にか、あの気分の悪い音は止んでおり、再び俺は顔を上げた。

相変わらず授業は続いていて、誰も黙祷をした様子はない。

俺もまた、その授業に目を向ける。


八年たっただけで、忘れてしまうのだろうか。
そんなに授業が大事なのだろうか。


今日、三月十一日という日を。
いま、二時四十六分という時間を。
このまま将来、みんなが覚えていられるのだろうか。


といっても、今年俺は、この日が光希歩の誕生日だと知ったから意識した。

去年までは、ここにいる人たちと同じだった。

知らぬ間に、時間が過ぎて。
家に帰ってテレビをつけてから思い出す。

その繰り返し。

俺が偉そうに思う権利なんてないんだ。


< 34 / 240 >

この作品をシェア

pagetop