あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

天地が黒く染まった日



私の九歳の誕生日会を明後日に控えた三月九日。

それは午前十一時四十五分。
四時間目の授業中にやってきた。

「こご、わがる人」

真っ先にスっと手を挙げたのはアズちゃんだった。

「はい、浜中さん」

「いえ、あの、なんが、揺れでねぇですか?」

その一言で、一気にみんなの視線が泳いだ。

「あ!蛍光灯揺れでる!」

誰かの叫びを聞きつけ、一斉に天井を見上げる。

ゆっさゆっさと振り子のように揺れている蛍光灯。

「机の下入っで!」

先生のその掛け声と共にざわめきがどんどん激しくなった。

体をじっとさせると、揺れているのだとよくわかる。

その揺れは左右にゆっくりと、船に乗っているかのごとく気持ちが悪かった。

隣の教室からも「きゃあ」というような声が聞こえてくる。

ゆっくりではあったが、次第に揺れが激しくなっていった。

長かった。

怖くて周りの友達に声もかけられない。

揺れは徐々に落ち着きを取り戻し、やがて終わりを迎えた。

教室はある意味興奮状態だった。

怯えている子。
叫んでいる子。
ふざけている子。
泣いている子。

「まだ余震くるがもしれんがら、気をづげらんしょ!」

先生がそう言っても一部の生徒が黙っただけ。

すると戸の向こうに他学年のクラスの先生が集まっていたため、荒井先生も廊下へと出ていった。

その様子を見たアズちゃんが私のところへやってくる。

「おっかねぇなぁ。もうすぐキホぢゃんの誕生日だってのに。もう余震こねぇといいげんども…」

「うん…」

余震が来なければいいな。

そう思っていた。
思い込んでいた。

これが前震だったなんて。
この時だれが気付いていただろうか。

これ以上に恐ろしい出来事が待ち構えているなんて。
この世界のだれが知っていたのだろうか。

否、だれも予知などできない。

もしも、だれかが知らせてくれていたら。

今。
私は。
こんな状態にはなっていなかったのに───…。

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