冷たい君の不器用な仮面
ブルルルルル




広い車の中に、エンジンの音だけが鳴り響く。





……なんとなく気まずい雰囲気。





いや、彼らにとってこの静かで異様な雰囲気は普通なのかもしれない。




にしても、この人たちは、成瀬の家の召使いかなんかなのだろうか。




成瀬の代役なのだろうか。





私はそんなことよりも、今どこに連れていかれるのかが気になり口を開こうとしたが、この沈黙の中でしゃべるのは気が引けた。





そんな中でいつ切り出そうか悶々としていると、 私側の席のドアが急に開いた。





「どうぞ、お降りくださいませ。」





いつのまにか目的地についていたようで どうやら男の人が、車のドアを開けてくれたようだった。




「ありがとうございます……」




私は強面の男の人に顔が引きつり、声が上ずってしまった。




……顔で決めちゃいけないのに!




実は優しいかもしれないじゃん!




私はそんなことを自分に言い聞かせながら、車から降りる。




その瞬間、私は唖然とした。




だって、今私の目の前には、大きなコンクリート造りの建物があったから。







それはあまりにも大きすぎて、ビルといっても過言ではないほどだった。




そこへと黒いスーツの人たちは、平然と入っていく。




「え、ちょ、えええ」





私は動揺しながらも、彼らに後についていく。





建物の中に入ると、私はさっきよりも倍以上動揺した。




……だって建物の中には、沢山の暴走族がいたから。




私は思わず「きゃっ」と悲鳴を出してしまい、とっさに手で口を押さえた。



でもそれはもう遅かったらしく、暴走族たちの視線は一斉に私に向いてしまった。





もう、一体成瀬は何者なの!?




スーツ姿の召使いみたいな人たちを わざわざ学校まで派遣させたり、暴走族を管理してたり。





……思ってたよりやばい奴なのかも。




いやいや、前から普通じゃないとは思ってたけどさ……。









私は体を縮こませながら、スーツ男たちに恐る恐るとついていく。



……今日はよく視線を浴びる日だな……





私は、なんとか鋭い視線に中を無事に生還し、人気のないところへと移動した。




安心したのかこわばっていた体から一気に力だ抜ける。




私はふうっと息を吐き、改めて建物の中を見渡す。





すると、ふとある額縁が目に入った。





……偉い人たちなのだろうか。




丁寧に手入れされた沢山の額縁の中には、モノクロからカラーの写真まで、いろんな人の顔写真が飾られている。




……この建物を管理してる人たちのリーダーとかなのかな?



私は歩きながら、その写真たちを凝視する。




すると、その中の1つの写真に目がとまった。





「成瀬に似てる……」




その写真の中の人物は、顔の整い方も、雰囲気も成瀬に似ていた。



鋭い目つきでこちらを睨んでいるように写っているその人。



見ているだけで、足が少しすくんでしまうくらいだ。





「何かおっしゃりましたか?」




私の小さなつぶやきに、スーツ男がくるっと振り返る。



「あっいえ、何でもないです」



私は慌てて首をブンブン振ると、スーツ男はにこやかに笑ってまた前を向いた。





その笑顔を見て、この人もすごい顔整ってるな……と今更ながらに思った。




スーツ姿のインパクトがありすぎて、今まであまり顔に注目していなかった。




昨日から美形に囲まれることが多かったから、もう体が慣れちゃったのかもしれない。




私はその後もキョロキョロと辺りを見渡しながら、長いコンクリートの廊下を歩いた。
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