冷たい君の不器用な仮面
キィッ




スーツ男がある部屋の前で急に止まった。




そして、ドアノブに手をかけゆっくりとドアを押し開ける。






そして私たちを部屋の中に入れると、部屋の奥にいるひとりの男性に頭を下げた。





「お連れいたしました。」




すると、男の人がこちらにコツコツと足音を響かせながら近づいてきた。





「ああおつかれ。もう下がっていい。」





そう言って、優しい瞳を私に向ける男性。





ーーー彼は、昨日会った成瀬のお父さんらしき人だ。






私はぺこりと小さく頭を下げ、その人を見つめる。
それと同時に、スーツ男たちがこの部屋から静かに出て行った。





「ごめんね、急に呼び出して。いきなりで怖かったでしょう」




いや怖いというか、迷惑というか……ていうかもうそんなレベルじゃなくなってまして……
と私は心の中でつぶやく。




でも、そんなことこの場で言えるわけがない。






私は いえ、と一言だけ答え、彼に勧められた黒いソファーに腰掛ける。






……ほんとなんなんだここ。





高級そうなソファーに、ガラスと金箔で作られた机。





じゅうたんは真っ赤でふかふか。






どこからどう見ても、高級ホテルのような部屋だ。






ここは成瀬の家だろうか。





いやいや、流石にここは家ではないか。





さっき長い廊下を歩いたから気づいたけど、この建物は全く生活感がなく、なにかの溜まり場にようなものだろうと私は思った。






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