ダメ。俺のそばにいて。
その時に、キーンコーンカーンコーンという腑抜けな予鈴が音楽室に響く。
そうだ、時間すっかり忘れてたけど昼休みだったんだ…!
ふと我に返った私を見て、久遠くんも椅子から立ち上がる。
「帰る?」
「教室に?うん、授業あるから。」
「じゃあ、俺も帰る。」
久遠くんも授業出るんだ…。
いや、普通か。
だって、なんか授業受けてるのとかあんまり想像できなくて。
ぼんやりそんなことを思いながら廊下へ出ると、続いた久遠くんが「あ」と言う。
「嬉しかった。ありがとね。」
「…なにが?」
「ピアノ。」
それだけ言って、先に歩いていく久遠くん。
その横顔は、ご機嫌そうにも見えた。
なんか今日は振り回された感が否めないけれど、久遠くんが楽しんでくれたなら良かったのかも…?
ほんと…、久遠くんってなんだか不思議。
だけど、そんな風に思いつつも私の口角は相変わらず上がっていた。