ダメ。俺のそばにいて。
あ、また地雷踏んだ。
いや、踏みにいったんだけど。
怒りの絶頂に達した先輩にはもう私しか見えていないみたいだった。
叩かれる…!
勢いよく振り上げられた右腕に、ギュッと目を瞑る。
その瞬間、バチンッと大きく乾いた音が響いた。
…っ、あれ、痛くない。
訪れるはずの痛みがこない。
疑問に思って目を開けると、私の目の前には黒髪の男の子がいた。
後ろ姿でもわかる、左耳かけの丸いフォルム。
難波くん…!?どうして!?
その瞬間、先輩達の顔は青ざめる。
「あ、蒼くんっ…!」
「んー?可愛い先輩方が見えたから来てみたらなんだか楽しそうなことしてたんで、混ざっちゃいました。」
ははっと笑ってる彼の顔は見えない。でも。
言ってることは相変わらずプレイボーイなのに、その言葉の端々に棘を感じる…!
「でも、さすがに手を出すのはどうなんですかねー?ちなみに先輩の彼氏さん知ってますけど、そこの茉優ちゃんに一目惚れらしいですよっ。」
「それはっ…この子が色目使って…!」
「あー、違います違います。駅でたまたま見かけただけだそうです。ははっ、そろそろ認めたらどうですか?振られたんだってこと。」
大きな背中から続々と聞こえる流暢な台詞に私も茉優も目を丸くする。
え…いや、難波くんでも女の子にこんなこと言ったりするんだ…。