God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
原田先生が見えなくなった途端、その課題を丸めてさっきのゴミと同様にポケットにねじ込み、そして再び……宝探しに戻る。
ていうか、まだ探すのか。
「もう、いい加減にしろよ」
「だって、まだその先の草むらは見てないから」
探し続けて見つかると言う、そこに何の根拠があるのか。
数打ちゃ当たる!か。
そこに、また1段と強い風が吹いたと思ったら、「うひゃあ!」と右川が声を上げる。その風の向こうに、あれよあれよと、右川が小走りで流された。
……コントかよ。
そこに、何やら地味な男子3人組が、風と一緒に踊りながら通り掛かる。
「あれ?会長さんじゃないっすか」
その1人が右川に手を振った。同輩ではない。どこか気だるい態度。慣れた様子からして、2年生。3人とも、首からカメラをぶら下げている。
「すごい風っすねー」
1人が俺に笑い掛けた。やけに慣れ慣れしいが、怒るほどでもない。
また一段と強い風が、逆から吹き込んで、右川のスカートが危うく巻き上がる。その瞬間、男子が3人とも、首から掛けていたカメラを構え、勢いよく連写でシャッターを切った。
「神風だぁ~」「アゲ~」「みらくる~」
ケラケラと笑い、次に3人は空を見上げ、今度は上の渡り廊下を行く女子を狙って構えた。
何だ、おまえら。
眉を顰めて微動だにしない先輩よりも、気になるのは女子の中味か。
俺はわずかに顎を持ち上げる。
何も言ってはいない。睨んだだけ。
だが3人は、吹っ掛けられたと同様の怯えを見せながら、
「「「ちわっす」」」
低姿勢で挨拶、という体は見せた。
「お世話になってまーっす。俺ら〝シャッターチャンスな日常〟でーっす」
まだあったのか。これもゾンビ・サークル。すっかり忘れていたし、それほど重要視もしていなかった。だが今現在、爆発的に嫌悪感が湧いている。
いつだったか、部員が2人になってしまった写真部と一緒になれば?と進言した事があったが、写真部は「ありえない」と苦笑い、「方向性が違う」と笑い飛ばし、頑として頷かなかった。
無理もない。その性質が真反対、明らかに違う。
こいつらは、校内の女子を撮影して喜んでいるだけの団体だった。
行事のたびに迷惑レベルの大活躍を見せて、ヒンシュクを浴びている。
先生からも公認され、行事の記録係として撮影を任されている写真部とは、天と地ほどの差があった。
「友仲先生!どーも!撮り鉄、また誘ってくださいよぉ~」
1人が、遠くの窓から身を乗り出した先生に向かって手を振る。
先生を顧問に取り込み、活動費を狙って、部に昇進を企んでいるのか。
そして1人は、右川の肩を揉み始める。
「会長さーん、お疲れッス。活動費とか、どうにか貰えませんかね。ちょっとでいいんで」
「会長のお墨付きがあれば、いいとこまでイケんですよぉ」
「そうしたら、さっそく部長とか決めねーとな」
どんどん勝手に盛り上がっているようだが、金とか部長とか顧問とか言う前に、あと2人足りない部員を集めろ。そして何故、俺の肩を揉んでくれようとはしないのか。それが1番、納得いかない。
1人が、仲間のポケットから何やら勝手に取り出すと、
「僕、これで会長さんにオゴっちゃおうかなぁ」
1万円札をヒラヒラさせた。
「な!バカ。やめろ。返せっ」と奪われた男子は必死で取り返しに掛かる。
金の匂いに敏感に反応したのか、「そのお金、どうしたの?」と、右川が喰い付いた。
「どうしたって……俺のっすよ」
「ウソだー」
「ウソって、何スか。マジで俺のっすよ。中古屋にゲーム売った金ですよ」
「ウソウソウソ。それ、どっかで拾ったんじゃないの?」
「おまえじゃあるまいし」と、俺は苦笑いした。
だが右川は何時になく真顔で、「それ、どこの中古屋?いつ売った?その証拠は?レシートあるよね?見せてよ」と、いつまでも喰い下がる。
「何スか?まさか俺、金盗んだって疑われてます?」
急に雲行きが怪しくなって来た。
チビ VS カメラヲタク男子。異種格闘技・対決。
「まーまーまー」と、別の男子が間に入って仲間をなだめた。
こっちも「いい加減にしろって」と、右川を抑える。いくら自分が探して見つからないからって、それで周りを疑っていてはキリがない。ていうか、迷惑だ。
横から1人が、「ささ」と何やら寄越す。
「沢村議長!俺達のベストショットを、どーぞ!」
そう言って、勝手に見せられたアルバムは、どこか三流週刊誌の風情が漂う、殆どが女子の、微妙にキワドいショットの数々であった。
その中の1枚に、浅枝が映っている。
一緒に帰る途中なのか、その横に彼氏の石原が居る。気に入らない様子で真っすぐカメラ目線で睨んでいた。こういうダークな表情が出せるヤツだったのかと、これはこれで興味深い。
3年で写っているのは、殆どが割と目立つグループの女子ばかり。
ジッと見ていると、何を誤解したのか、
「えっと、桂木さんは写してないっすよ」
あ、そ。
てゆうか、「別にもらおうとか思ってないよ」俺はアルバムを突き返した。
「沢村先輩には悪いっすけど、あの人、地味っすよね」
「地味?」
俺に対する遠慮は別として、そりゃ桂木は派手に主張するタイプではないけれど、行事の折は、割と先頭に立って動いているのは周知の事実である。
「地味っすよー。あんま喋った事もないし」
「つーか、髪型が普通ですよねぇ」
「こないだ駅で見掛けたんスけど私服だとちょっと分かんないっていうか」
こういう時、思うのだ。縁の下の力持ち。ひたすら裏で貢献している輩というのは、世間には評価されにくい。浅枝より、右川より、そして片隅のたった1枚に小さく映っている阿木よりも、地味と取られてしまう。そんな桂木が自分とダブった。
「そだね♪確かにミノリは地味だねぇ~」
ていうか、まだ探すのか。
「もう、いい加減にしろよ」
「だって、まだその先の草むらは見てないから」
探し続けて見つかると言う、そこに何の根拠があるのか。
数打ちゃ当たる!か。
そこに、また1段と強い風が吹いたと思ったら、「うひゃあ!」と右川が声を上げる。その風の向こうに、あれよあれよと、右川が小走りで流された。
……コントかよ。
そこに、何やら地味な男子3人組が、風と一緒に踊りながら通り掛かる。
「あれ?会長さんじゃないっすか」
その1人が右川に手を振った。同輩ではない。どこか気だるい態度。慣れた様子からして、2年生。3人とも、首からカメラをぶら下げている。
「すごい風っすねー」
1人が俺に笑い掛けた。やけに慣れ慣れしいが、怒るほどでもない。
また一段と強い風が、逆から吹き込んで、右川のスカートが危うく巻き上がる。その瞬間、男子が3人とも、首から掛けていたカメラを構え、勢いよく連写でシャッターを切った。
「神風だぁ~」「アゲ~」「みらくる~」
ケラケラと笑い、次に3人は空を見上げ、今度は上の渡り廊下を行く女子を狙って構えた。
何だ、おまえら。
眉を顰めて微動だにしない先輩よりも、気になるのは女子の中味か。
俺はわずかに顎を持ち上げる。
何も言ってはいない。睨んだだけ。
だが3人は、吹っ掛けられたと同様の怯えを見せながら、
「「「ちわっす」」」
低姿勢で挨拶、という体は見せた。
「お世話になってまーっす。俺ら〝シャッターチャンスな日常〟でーっす」
まだあったのか。これもゾンビ・サークル。すっかり忘れていたし、それほど重要視もしていなかった。だが今現在、爆発的に嫌悪感が湧いている。
いつだったか、部員が2人になってしまった写真部と一緒になれば?と進言した事があったが、写真部は「ありえない」と苦笑い、「方向性が違う」と笑い飛ばし、頑として頷かなかった。
無理もない。その性質が真反対、明らかに違う。
こいつらは、校内の女子を撮影して喜んでいるだけの団体だった。
行事のたびに迷惑レベルの大活躍を見せて、ヒンシュクを浴びている。
先生からも公認され、行事の記録係として撮影を任されている写真部とは、天と地ほどの差があった。
「友仲先生!どーも!撮り鉄、また誘ってくださいよぉ~」
1人が、遠くの窓から身を乗り出した先生に向かって手を振る。
先生を顧問に取り込み、活動費を狙って、部に昇進を企んでいるのか。
そして1人は、右川の肩を揉み始める。
「会長さーん、お疲れッス。活動費とか、どうにか貰えませんかね。ちょっとでいいんで」
「会長のお墨付きがあれば、いいとこまでイケんですよぉ」
「そうしたら、さっそく部長とか決めねーとな」
どんどん勝手に盛り上がっているようだが、金とか部長とか顧問とか言う前に、あと2人足りない部員を集めろ。そして何故、俺の肩を揉んでくれようとはしないのか。それが1番、納得いかない。
1人が、仲間のポケットから何やら勝手に取り出すと、
「僕、これで会長さんにオゴっちゃおうかなぁ」
1万円札をヒラヒラさせた。
「な!バカ。やめろ。返せっ」と奪われた男子は必死で取り返しに掛かる。
金の匂いに敏感に反応したのか、「そのお金、どうしたの?」と、右川が喰い付いた。
「どうしたって……俺のっすよ」
「ウソだー」
「ウソって、何スか。マジで俺のっすよ。中古屋にゲーム売った金ですよ」
「ウソウソウソ。それ、どっかで拾ったんじゃないの?」
「おまえじゃあるまいし」と、俺は苦笑いした。
だが右川は何時になく真顔で、「それ、どこの中古屋?いつ売った?その証拠は?レシートあるよね?見せてよ」と、いつまでも喰い下がる。
「何スか?まさか俺、金盗んだって疑われてます?」
急に雲行きが怪しくなって来た。
チビ VS カメラヲタク男子。異種格闘技・対決。
「まーまーまー」と、別の男子が間に入って仲間をなだめた。
こっちも「いい加減にしろって」と、右川を抑える。いくら自分が探して見つからないからって、それで周りを疑っていてはキリがない。ていうか、迷惑だ。
横から1人が、「ささ」と何やら寄越す。
「沢村議長!俺達のベストショットを、どーぞ!」
そう言って、勝手に見せられたアルバムは、どこか三流週刊誌の風情が漂う、殆どが女子の、微妙にキワドいショットの数々であった。
その中の1枚に、浅枝が映っている。
一緒に帰る途中なのか、その横に彼氏の石原が居る。気に入らない様子で真っすぐカメラ目線で睨んでいた。こういうダークな表情が出せるヤツだったのかと、これはこれで興味深い。
3年で写っているのは、殆どが割と目立つグループの女子ばかり。
ジッと見ていると、何を誤解したのか、
「えっと、桂木さんは写してないっすよ」
あ、そ。
てゆうか、「別にもらおうとか思ってないよ」俺はアルバムを突き返した。
「沢村先輩には悪いっすけど、あの人、地味っすよね」
「地味?」
俺に対する遠慮は別として、そりゃ桂木は派手に主張するタイプではないけれど、行事の折は、割と先頭に立って動いているのは周知の事実である。
「地味っすよー。あんま喋った事もないし」
「つーか、髪型が普通ですよねぇ」
「こないだ駅で見掛けたんスけど私服だとちょっと分かんないっていうか」
こういう時、思うのだ。縁の下の力持ち。ひたすら裏で貢献している輩というのは、世間には評価されにくい。浅枝より、右川より、そして片隅のたった1枚に小さく映っている阿木よりも、地味と取られてしまう。そんな桂木が自分とダブった。
「そだね♪確かにミノリは地味だねぇ~」