God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
BL研3人組
その日の放課後。
阿木と浅枝は生徒会室に待機。
右川を今日はひとまず放り出し、俺も桂木も部活の練習に顔を出した。
バレー部が体育館使用日だから、という事もある。
「今日は全員揃ったね」
ノリが笑顔で出迎えてくれた。
3年になって、ノリと会えるのは部活だけ。ノリは1組だから、選択授業でも体育でも別れてしまって……それが何となく寂しい。
今日は、体育館の隅っこにかたまって筋トレする1年生を監督しているようで、「もうプルプルしてんぞー」と、ノリは腹筋中の1年男子の脇腹を突いた。
それがどうもドツボにはまったらしく、後輩がしばらくのた打ち回る。
こういう時、思うのだ。ノリは優しい顔して、結構〝S〟。
そして、後輩には是非とも伝えたい。こいつがマジギレしたら終わりだゾ。
1年生は、監視の目を盗んで座り込む、すぐに水場に逃げる、疲れた振りをする。俺はノリが見落とすそれらを、「休むな」「逃げるな」「立ち上がれ」と拾い上げた。
たまに真面目にやっているかと思えば、体操部の女子に見とれていて、
「今、何回した?」
声を掛けると、一同が、「え!?」と困って目線を泳がせる。
「67っす」「え?77だろ」「俺、90超えたよ」
戸惑う1年部員を横目に、ふとステージ上を見ると、右川がちょろちょろしていた。
今日は演劇部にお邪魔か。
どうみても遊んでるようにしか見えない。演劇部はマニアックな個性の集まり。剣道部のようにはいかないゾ。あ、部長につかまった。ほらほら叱られた。追い出されたー!
そこで思わずチッと舌打ちが出た。
「……ふざけんなよ」
「「「す、すいませんッ!」」」
何を勘違いしたか、1年が腹筋のスピードを上げた。
「効率がいいな」とノリがそれを眺める。顔を見合わせて笑った。
その後、体育館のコート、ボールを追って散々転がり、新人も転がし、10分の休憩となる。外もいい天気で、汗を気持ちよく発散させた。
縁石に腰掛けて、俺はアクエリアスをラッパ飲み。
「進撃の新刊、買えよ」「は?なに?今度はオマエが買えよ」「ももクロのDVD、貸してやったろが」「何言ってんだオメ。それ次元がちげーし」
1年生が醜い内部争いをしているその肩越し、また右川の姿が目に留まった。
見れば、さっきまで演劇部に遊ばれた右川が、今は真木と仲良く居る。
真木は練習の途中なのか、フルートを手に、右川と一緒になって楽譜を覗いていた。そこで、またしても右川に隙を突かれて、脇腹攻撃。その場に潰れて、助け起こされる。俺ほどじゃないが、ひょろりとした体型の真木と、チビの右川は絶妙な凸凹コンビだった。
体育館の時計を見れば、やっぱりというか、とっくに3時半を過ぎている。
右川は馴れ馴れしく真木の腕に掴まって、何やら訴えて……と見えた。真木はどこか困ったような顔で、それでもニコニコと笑いながら、ウンウンと頷く。
その先、どういう話になったのか知らないが、右川は親しそうに真木の腕を取ると、2人で一緒になって向こうに行ってしまった。
やけに馴れ馴れしい、とは考えすぎか。
「あの相々傘って、右川先輩と真木くんの事ですかねぇ~」
誰かと思えば、BL研3人組。いつのまに居たのか、水場で3人が勢揃いだ。
そして、「だーいじょーぶですってー」と、俺の肩をポコポコと叩く。
「いや、別に。心配してないから」
どこを誤解して大丈夫と言うのか知らないが、確かにあの状況を見れば……。
〝せとかいとスイソーの相々傘〟
それは、右川会長と新人の真木を言うのかもしれないと、実際、俺も同じ事を考えた。
事実、真木を生徒会に拾ったのは、右川である。誰かが、あんな光景を見掛けて、落書きして生徒会をアザ笑っている……あり得る気がした。そうなってくると、犯人はバスケ部の疑いも。
「でも、いいんですかぁ?ああいうのって」
「何が」
「せーとかいって、恋愛禁止じゃないんですかぁ?」
「今時、そんなルールなんか無いよ」
漫画の読み過ぎ。それを言ったら、俺と桂木はどうなるのか。
実際、恋愛禁止ルールを声高に掲げる団体は見当たらない。
「いーんですか?あれはどう見ても、右川会長が真木くんを狙ってますよ」
右川が一方的に真木をイジり、真木は迷惑千番ながら無視もできないといった様子。これは、好きなコを苛めたくなる典型的なタイプに映るだろう。
だが、右川には山下さんという聖域がある。
「右川に限ってそれは無い。絶対無い」と断言すると、「えぇ~、無いんですかぁ。勿体ない。その方が盛り上がるのにぃ」とBL研は地団太を踏んだ。
1人、「バレー部の練習風景を写真に撮っていいですかぁ?」と来て、次は誰をターゲットに狙っているのか知らないが、印籠の如く、「ダメ。大事な練習中だから」と追い払った。(現状、それ程でもない。)
3人組はそれからも、あちこちで写真を撮り続けた。(ダメと言ったのに)
何やらメモりながら、楽しそうに雑談している。女子を追いかけまわすシャッターチャンス軍団と、何処が違うのだろう。マジ、現実、見ようゼ。
俺は3人組をそのままに、練習に戻った。
5時を過ぎて、後片付けを終えて解散。
部室に戻る途中、水場を通りがかった所、その先の中庭に右川が居た。
まだ居た。もう6時になろうかというのに。こんな時間まで何をやっているのかと、それは愚問になりつつある。
「いつまでも、ムダな事を」
好きな人へのプレゼントはお金を拾い集めて買いました♪
そんなの、山下さんは絶対に喜ばない。そんな行為を恥ずかしいとさえ思う筈だ。分かり切った事なのに。
ノリ達は、とっくに部室に行ってしまったが、俺は1人、仲間をはぐれて右川の様子を窺った。見ていると、右川は体を最大限に伸ばして、高い所に手を突っ込んでいる。
足許がフラついて心許ない。届かないと分かると、そこを諦め、お次は、人差指で風向きを確かめた。そこから、一目散に一方向に向かって駆け出す。
その指には、宝の在りかに反応して動くセンサーでも付いてんのかよって。
右川は、駆け込んだその先、どこかの教室で、窓から身を乗り出し、何やら訊ねていた。その返事に納得できなかったのか、意気消沈した様子で、再び、中庭に戻ってくる。同じ場所から、またまた人差指を空にかざして……いつにもまして必死の形相だった。
それが気に掛かる。
お決まりの3時半を曲げてまで、金。
そう言えば……あれだけ逃げ回っていた生徒会作業に、急にやる気を見せた事がまず怪しい。
思えば、今まで急に態度がコロッと変わる時は、必ず何かを企んでいた。
そこら中を突き回る右川を尻目に、俺は警戒レベルをまた1つ、上げておく。
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