この恋。危険です。


『よろしくね。』

なんて、意味深に笑って言われたから、しばらくは内心かなり警戒してた。
でも、彼は、いたって普通。
それどころか。
業務に関わる話しかしない。

あんなことを言われたから、
ご飯に誘われたり、デートに誘われたりするのかなと思ってた。
誘われた時の断りかたまで考えてた。

Canonで会って、彼のことを好きだと自覚はしたけれど。
彼が既婚者とわかった今、どんなに誘われたところで不倫相手には絶対なりたくない。


まぁ、私なんて相手にしなくても、不倫相手になってくれそうな子はわんさかいそうなんだけど。

「竹中先生♡今度ご飯行きませんか?」
「竹中先生♡連絡先教えてください♡ 」

また。今日も彼に話かけてる子がいる。
フリーならともかく、既婚者を狙う意味がわからない。

そんな彼女たちにむかって、竹中先生はにっこり微笑む。
「気持ちは嬉しいんだけど。仕事中はきちんと仕事したいんだ。
それに、俺には大切な人がいるから。ごめんね。」

いい終えると、何事もなかったようにまた仕事に向かう。

「はーい。」
彼女たちも、それ以上食い下がるようなことはしない。

彼の指に光る指輪と、彼の言葉。
'大切な人がいる'

どう考えても、奥さんしかいない。

胸がチクリと痛むけれど。
私は気づかない振りをする。


スタッフルームで昼食を食べていると、後輩たちが楽しそうに話している。
「やっぱり、竹中先生いいなぁ。私、あの人なら奥さんいてもいいかも。」
「かっこいいよね。愛妻家なところもいい。」
「実際、奥さんが近くにいるわけじゃないしご飯くらいよくない?誘ってたら、そのうち行ってくれないかなー。」
「奥さんと本当にうまくいってるとは限らないしね。」
道ならぬ恋の希望者は、ここにもいたらしい。
「上原さんはどう思います?」
急に話題を振られる。
えっと。これは、どこに反応すればいいのかな?
「どうだろうね。」
「もー、話聞いてました?友里さんって本当に恋愛に興味ないですよね。」

興味がないわけじゃ、ないんだけどな。
なんて、言ってもしょうがないので黙っておく。
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