この恋。危険です。
竹中先生と働き始めて数週間。
結局、今のところ彼から誘われるようなことはないし、他の子とご飯にいったなんて話も聞いてない。
彼の指輪と『大切な人がいる。』という発言で、ほとんどの子たちにとっては恋愛の対象ではなくなってる。
それに、彼は、仕事中にプライベートに話しかけてくる子に対し、
『仕事中はきちんと仕事をしたい。』
にっこり笑ってそんなことを言って、仕事以外の話はスルーしていた。だから、勤務中に彼に仕事以外の話をする子はいなくなった。
でも、昼休みと業務後に話しかけるチャンスを狙ってる子はいる。
竹中先生はいつも捕まらないように、少し時間をずらして動いてる。それでも、捕まるときは捕まるわけで。
今日はナースステーションを出たところで捕まったらしい。
患者さんもいるんだから、そんなところで話さないでほしい…
私の思いとは裏腹に、
「竹中先生♡おつかれさまです。よかったらこれ……」
差し入れする子。
「竹中先生♡ご飯行きませんか?」
ご飯に誘う子。
「竹中先生♡連絡先教えてくれませんか?」
連絡先を知りたがる子。
他愛もない質問には、答えることもあるようだけれど…
「いつも言ってるけど、大切な人がいるから。彼女に心配かけたくないんだ。ごめんね。」
そう言って、困ったように微笑んでいる。
いつもはそれで引き下がるのに、今日は引き下がらなかった。
「先生の大切な人ってどんな人なんですか?」
へ?!
つい聞き耳をたててしまう。
「言ったら、もうプライベートな誘いはしないでくれるかな?」
「…………納得できれば。」
彼は、息を吐いて話始める。
「まわりの人を思いやれる、優しい人だよ。それに、普段はすました顔してるくせに、笑うととてもかわいいんだ。」
そう話す彼の声は優しくて、愛しさに溢れていて。
彼が本当に大切に思っているのだと伝わってくる。
今まで、何となくでしかなかった、竹中先生の大切な人。
それが急に現実味を帯びる。
胸がぎゅっと締め付けられる。
苦しい。
Canonで会っても、本当に大切な人がいるから誘って来なかったんだ。
それに。
『よろしくね。』も、本来の意味で、きっと深い意味はなかったんだ。
ドクターなんて信用できない。
そう思っていたけれど、彼は違うのかもしれない。
「納得できた?」
竹中先生が、困ったように尋ねる。
「できました。先生は、その人のことが本当に大切なんですね。」
「うん。」
彼は、照れたように笑ってた。