心にきみという青春を描く
「俺はなつめにはずっと綺麗なままでいてほしいんだ。汚いことなんてなにも知らずにずっとそのままで――」
「……っ」
その瞬間、私は手に持っていたキャンバスを離した。
先輩のために描いた絵がガタッと落下していく様も気にせずに、そのまま先輩のパーカーの胸元を掴んで詰め寄った。
「先輩と関わって汚くなるならそれでもいいです!」
久しぶりにまっすぐと目が合った。その距離は先輩の瞳に自分の顔が確認できるほど近い。
「私は綺麗じゃないです。先輩が描いた青いひまわりを捨ててしまおうともしたし、先輩の口から葵さんの名前を聞くたびに本当は耳を塞ぎたくなります」
先輩に恋をしたけれど、どうこうできるなんて夢のまた夢。だから高望みもしてないし、贅沢なことも望まないつもりだった。
なのに、歯止めが効かなくなって、どんどん知らない自分が顔を出す。
「私だって、先輩と同じように消化できないことだってあります。そうやってフィルターをかけて私を見るのはやめてください」
――『それだけなつめが俺にとって無垢な存在ってことだよ』
先輩が遠ざかるんじゃない。
先輩が私を遠い場所に置こうとしていた。
「一緒です。先輩。私も必死に惨めったらしく先輩を諦められません。……一緒なんですよ。先輩が絵を描くことも葵さんを想い続けてることも過去の出来事を許せないことも。そうやって迷いながら答えを探しているのは、先輩だけじゃないんです」
自分が特別だなんて思わないで。
自分だけが他の人とは違うなんて思わないで。