☆君との約束
「……陽向?」
「……」
「ごめんね」
「……」
「怒ってるよね」
「……」
「ごめん……」
謝らなくて、良いんだよ。
そう言ってあげたいのに、まるで、身体が死んだように。
「ごめんっ」
泣かないで。
君を泣かせるために、こんなことをしてきたわけじゃないんだから。
「莉華……」
手を伸ばして、抱き締める。
君が離れている間、色んなことがあったよ。
いっぱい、俺は悩んだよ。
悩みなんて知らなかったのに。
背中に手を回して、掻き抱いた。
きつく抱きしめると、莉華もそれに応えてくれる。
暖かな手が、自らの背中を這う。
それだけ、たった、それだけ。
それだけなのに、こんなにも……こんなにも、狂おしくて、愛しさなんて消えてなくて。
『死んでからも、会いたいと思える女に会えたって、かなり幸せ者でしょう?俺』
耳元で蘇る、久貴の声。
お前はもう、沙織に会えたか?
最愛の人を、こんなふうに抱きしめたか?
抱きしめることが、出来たか?
「莉華っ」
―ああ、生きている。
莉華はまだ、生きている。
苦しかった毎日でも、
傷がまだ疼いていても、
君がいたから、
君を信じることが出来たから、
俺はきっと―……きっと。
「陽向……お父さんに、なれたの……」
「……っっ、」
抱きしめることしか出来なくて。
声が声にならなくて。
涙が自分でも驚く程に溢れて。
「ありがとう……ずっと、私を待っててくれて……ごめんね、ごめん……陽向の人生を、縛り続けて、本当に……」
謝らないで。
俺が父親になったのなら、君も母親になったってことだから。