副社長と恋のような恋を
 車から降りると、スタッフの人が軽く会釈をした。

「お待ちしておりました、川島さま。本日ご案内を務めます平井です」

 丁寧な挨拶をした平井さんに対して、副社長が声を出して笑った。それに釣られるように平井さんも笑いだした。

「平井に敬語を使われるって、変な感じっていうよりおもしろいな」

「本当だ。彼女さん、困った顔をしてるけど、いいのか?」

 私が二人を交互に見ていたので、状況を理解していないのは平井さんも気づいたらしい。

「あ、ごめん。彼は俺の大学時代の友人なんだ。で、彼女は酒井麻衣さん」

 副社長に紹介され、私は軽く会釈をした。

「初めまして。酒井と申します。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 平井さんはシルバーフレームの眼鏡をかけ、髪を後ろにきれいに流している。とても真面目そうな感じがした。

 挨拶を交わし、結婚式場へと入った。今日はブライダルフェアを開催しているらしく、多くのカップルが会場内にいた。

「まずチャペルの見学から」

 平井さんの後について歩く。すれ違うカップルの顔を見ると、みんな幸せそうだった。なんだか自分は場違いのように思えた。

「どうしたの。難しい顔してるね」
< 130 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop