副社長と恋のような恋を
 佐藤さんのほうを見ると、にこにことほほ笑んで、そうなんですと言った。

「それではドレスを選びましょうか。どのようなデザインのものがいいですか?」

 そんなことを聞かれても答えられない。そんなことを考えたこともないのだから。

「特にないので、いろいろ見てもいいですか?」

「どうぞ。気になるものがありましたら、声をかけてください」

「はい」

 隣をみると、近くにいたはずの副社長はいなかった。

 列をなして並ぶウェディングドレスの間を歩くと、真剣な顔でドレスを選ぶ副社長がいた。

「なんで、そんなに本気で選んでるんですか」

「本気で選ぶでしょ、普通。ウェディングドレスだよ」

「結婚が本当に決まっていればそうでしょうけど」

「なにそれ、近い将来、俺と別れるつもり?」

 不貞腐れた顔でそんなことを言われた。

 黒の細身のパンツに白地に細いライムグリーンのラインが入ったシャツ。そんなシンプルな格好なのにかっこよく、そんな人がウェディングドレスを見ながら仏頂面。アンバランスで子供みたいだった。それがおかしくて思わず笑ってしまった。

「なに笑ってるんだよ」

「ごめん、なんかかわいくて」

「かわいい?」

 副社長が驚いた顔をして聞き返してきた。

「はい、かわいいですよ。いろいろちぐはぐで」
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