副社長と恋のような恋を
「それ、いいですね。実は使いたいネタがあったんですけど、腕時計に絡めることができなくて。それでプロットを組んでみます」

「仕事のほうも忙しいようなので、体調には充分気をつけてください。では小説のほう、よろしくお願いします」

「はい。ありがとうございました」

 打ち合わせが終わり、地下鉄へ向かっているとき、電話がかかってきた。バックからスマホを取りだし、画面を見ると副社長からだった。

「もしもし」

『今、大丈夫?』

「大丈夫ですよ」

『今日、出版社で打ち合わせだったんでしょ。よかったら、一緒に夕飯どう?』

 副社長の話し方が、少し気を使っているような感じがした。きっと、私の態度がそうさせているんだろう。

「いいですよ。どこに行けばいいですか?」

『この前、一緒に行った映画館の近くにあった、カレー専門店は? 今、出版社の近く?』

「今から地下鉄に向かうところ。そこならここからも近いから三十分くらいで着くと思う」

『わかった。待ってる』

 そう言って、電話は切れた。スマホをしまって、地下鉄へ続く階段を下りた。

 最近、副社長が忙しいっていうのもあるけれど、私の態度のせいで会う時間は減っている。待たせているうえに、気を遣わせている。本当にダメだなと思った。
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