副社長と恋のような恋を
 時々、この友達が二人のキューピット役を買って出るや、あのカバンにはプレゼントが入っているなどの、ストーリーの予測をしあった。

 車で仕切られている空間は、映画館で映画を見ている感覚を味わいつつ、プライベートな空間もあって、映画館と自宅でのDVD鑑賞の好いとこ取りをしているような気分になる。

 物語は中盤に差しかかり、二人の関係性がだんだんと変わっていく。ケンカは相変わらずだが、そのケンカがコミュニケーションの一つへとなっていった。

『いい加減、お互いのことちゃんと名前で呼ばない』

 男が女に切り出した。二人はお互いのことをバターと炊飯器と呼んでいる。ケンカの流れでそうなり、定着してしまったのだ。

『そうね、いくらなんでもお互いひどい呼びようよね』

『じゃあ、名前で呼ぼう。ミス・ブラウン』

『え、そっち?』

『ああ、ごめん、ちょっと間違えた。これからもよろしく、エミリー』

『ええ、こちらこそよろしく、マーク』

 二人は握手をして、その流れでなぜかキスをしてしまい、またケンカになった。

「いいな、俺も名前で呼ばれたい」

 副社長はスクリーンを見ながら言った。

「誰にですか?」

「婚約者という名の恋人に」

「そんな人、いたんですか?」
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