副社長と恋のような恋を
 私からすれば、呼び方にそこまで拘らなくてもいいんじゃないと思う。

 副社長は無表情でフライドポテトをつまんだ。

「わかりました、呼びますよ。明人(あきと)さん」

「いいね、それ。ありがとう、麻衣」

「いや、私は酒井でいいです」

「それじゃあ、意味ないよ」

 副社長は笑顔で、目の前にフライドポテトを差し出してきた。それを指で掴もうとしたら、引っ込められた。

「違うよ。あーん」

「いや、自分で食べられますから」

「敬語もやめようか。なんか堅苦しい」

 副社長が再びフライドポテトを目の前に持ってきた。

 どうしよう。映画を横目で見ながら、フライドポテトと副社長の顔を交互に見る。

「大丈夫? 目がすごく動いているよ」

 私の表情がおもしろいのか、軽く肩を揺らしながら笑っている。

 もう、これは餌付けだと思うことにしよう。ひな鳥と親鳥だ。意をけっして口を開き、副社長から視線を外してフライドポテトにかじりついた。

 副社長は満足そうにこっちを見ている。

「映画、あと少しで終わりそうだね」

「そうですね」

「敬語」

「そうだね」

 もう、素直に言いなりになったほうが楽な気がしてきた。

 私のぶっきらぼうな物言いでも嬉しいらしい。副社長は繋いだ手を上下に少し揺らしていた。
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