きらり、きらり、
「ニヤついてるんじゃなくて、にこにこです」

「自覚ないな。普通に機嫌悪いときもあるし」

「想像つかないです」

「バイクが倒れてたりするとイライラします。あと、絶対小さな本なのに、ものすごく大きな封筒に入れてくる通販会社」

急な真顔からはその不機嫌の一端が伺えて、逆に私は楽しくなった。

「しかもご丁寧に『折り曲げ厳禁』って書いてるんですよね。不在で対面配達もできなかったら持ち帰りです。あ、ミナツさんのアパートはポストの口が広いからありがたいです」

だったら、ポストがもっと小さければもっと小川さんに会えたのに、と私は大家さんを恨んだ。

「私なんて仕事中ずーっと死んだ目でキーボード叩いてますよ」

「……ミナツさんは、会社員なんですね」

「コーヒーの販売会社で事務員をしています。細貝珈琲館。あれ? 知りませんでしたっけ?」

「ああ! だからあのドリップコーヒー!」

「小川さんは何でも知ってる気がしてたけど、言ってなかったんですね」

私の会社は県内を中心に自家焙煎のコーヒー豆を販売し、カフェも出店している。
本部にいる私は、県内の様々な飲食店に卸したり、豆やドリップコーヒーをスーパーや道の駅などで販売する卸売りの業務を担当していた。

「いただいたコーヒーも全部味が違っていて、全部おいしかったです」

小川さんの真顔は数分ともたず、結局にこにことえくぼを浮かべた。

「よかったです」

どうにも負けた気がして、私も微笑み返した。
例え仕事用でも、小川さんは笑顔の方がいい。


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