きらり、きらり、
小川さんの食べるスピードは早かった。
小鉢に取った麻婆担々麺は、ほどよく冷めてもその辛さゆえになかなか進まない。
結局私は醤油ラーメンをすすっていたのだけど、その私より早いスピードで黒い器を空にした。
その頃には、チャーハンも餃子も半分ほどになっている。
「もっと食べます?」
半分残っていたのは、私に遠慮してのことだったらしい。
口に餃子が入っていたので、無言で首を横に振ると、お皿を引き寄せてもりもり食べ始めた。
「辛くなかったですか?」
「辛かったですよ。思った以上でしたね」
「だって、平気そう」
「そんなこともないですけど」
吹き出して、手で口元を覆う。
「ミナツさんよりは顔に出ないだけですよ」
恥ずかしくて俯いた目線の先には、汗を吸い取った紙ナプキンがある。
念入りに作ったお化粧も、ほとんど取れてしまったに違いない。
「あんなの普通です。小川さんが変わらないだけですよ。いつもにこにこ営業スマイルで」
いつまで経っても本心が見えないのは、私があくまでお客様だからなんだろうか。
怒りでも悲しみでもいい。
足掻く私の爪の先が、ちらっとでも傷を残せたらいいのに。
チャーハンに付いてきたワカメスープを、きょとんとした顔で小川さんは飲む。
「普段別ににこにこしながら配達なんてしてませんよ?」
「いいえ。いつもにこにこしてます」
「そうかなあ? ミナツさんの前ではそんなにニヤついてるんですね」
小川さんは手で口や頬に触れながら、表情を消すように真面目な顔をする。