きらり、きらり、
雲の一ヶ所を漠然と見ながら、またひとつこんにゃくゼリーを食べる。
動く気配のないぶ厚い雲の向こうには、ほんの少し欠けた月があるらしい。
小川さんも今、その見えない月を見上げている。
それならば、見えるか見えないかは問題ではなく、同じものを見ている喜びが空を明るく見せた。
けれど、贅沢を言っても許されるなら、小川さんの隣で見たかった。
『一緒だったらよかったんですけどね』
「うぐっ?」
以心伝心かと驚いて、注意された直後にも関わらず、こんにゃくゼリーを軽く喉に引っ掛けた。
こっそり命の危機から脱した私は、素知らぬ顔で聞き返す。
「……『一緒』って?」
『団子、つい買っちゃったけど、ひとりだと多いなって』
抱いた期待が魂ごと身体から抜けて、ベランダの手すりにどうにか支えてもらう。
「一緒にいてもダメですよ。私、あんこ苦手ですから」
『そっか、残念。じゃあ、帰ろうかな』
笑いを含んだ声と重なり、すぐ下でガサガサというビニール袋の音がした。
私の部屋から漏れる明かりの中に、月より会いたい人が立っていた。
「小川さん!」
「こんばんは、ミナツさん」
『こんばんは、ミナツさん』
直接、そして重なるように少し遅れて電話から声が聞こえる。
ガサガサという音は、コンビニの袋を提げた小川さんが私に手を振っている音だったのだ。
「今! そっちに行きます!」
裸足だったけど、靴下を履く余裕もなく、そのままスニーカーに足を突っ込む。ドアに鍵を掛けることもしなかった。