きらり、きらり、
くすぐるような風が吹いて、小川さんの持つビニール袋がかさりと鳴いた。
凍えるほどでなくても、コンクリートの冷たさもじわじわしみてくる。
「ちょっと、待っててください!」
走って部屋に戻るとトレイに煎茶をふたつ乗せて、そろりそろりと運ぶ。
「お待たせしました。煎茶です。熱いので気をつけてください」
「あ、すみません! ……いただきます」
さっそく一口飲んだ小川さんは、
「やっぱり団子にはお茶ですね」
と、深いため息をついた。
「お月見だと本来はお酒ですよね。お酒に月の姿を映して飲むんじゃなかったっけ? 煎茶じゃ、映らない……」
「どうせ見えないんだから、煎茶で正解です」
小川さんが再び満足げなため息をつくから、私も熱いうちにと煎茶を飲んだ。
「小川さん、お酒飲めないですもんね」
「飲めたら楽しいんだろうなーって思いますけどね」
「あ、でも、資源回収の日に大量のビール缶と栄養ドリンクの瓶出してると、人生悲しくなりますよ」
あはははっと小川さんの影が楽しそうに揺れた。
「頑張ってる証拠です。堂々と出してください」
顔を巡らしても隙のない雲なので、代わりに隣にあるはずの小川さんの笑顔を思い浮かべる。
「そもそもこっち方向で合ってるんでしょうか?」
凹凸を感じない雲のどこを見たらいいのかわからない。
見上げる空は一緒だけど、多分私と小川さんは別のところを見ている。
「ちゃんと方向は南向きなので、出たら見えると思いますよ」
「そういえば、お月見って、お団子とお酒と、あと何でしたっけ?」
小川さんも少し考えたようだった。
「すすき。一本隣の空き地にありましたね。もらってくればよかった」
「あとは芋とか栗とか?あ、私の家ではぶどうもあげてましたよ」
誇らしげにこんにゃくゼリーを持ち上げると、小川さんの笑い声が聞こえた。
「じゃあ、モンブランも買ってくればよかったですね。芋ようかんもあったような気が……」
「聞いただけでお腹いっぱいです」
電話することはあんなに躊躇われたのに、隣にいると他愛ない話が次々と出てくる。
胸はいっぱいなのに気詰まりな感じはなく、私はこのまま一晩中でもこの曇り空を眺めていられる気がした。