きらり、きらり、
車の小さな窓から見える紅葉は、強めの風に吹かれている。
ビュオーッという風が車にぶつかるけれど、狭い車内は、少し暑いくらいだった。
「小川さん、やっぱりいつもにこにこしてますね」
「そうですか?」
小川さんはおにぎりを口に入れたまま、首をかしげる。
「台風の日だって『いっそ快感』って。私も道端のお花とか小さな幸せを感じて笑っていたいのに、なかなか難しいです」
天気がいいなー、タンポポかわいいなー、と一瞬思っても、すぐに忘れてしまう。
燃費の悪い私は、小さな幸せでは笑顔を保てない。
たくさんあったおかずは、半分ほど減っていた。
その幸せな隙間を感じることもできず俯いていた私の頭を、一瞬重みとぬくもりが通り抜けていった。
「俺のはそんなのじゃないですよ。例えば花が咲いただけで幸せな気持ちにはなりません。むしろ、大事なのはその先です」
「その先?」
「『花が咲いたって教えたいなー』とか『一緒に見たいなー』とか。喜ばせたいって思って幸せを感じるんです。そういう人の方が多いんじゃないかな? 少なくとも、俺は紅葉をひとりで見ようとは思いません」
うれしことがあったら、誰かに言いたくなる。
喜んでくれるかもしれないって想像したら、さらにうれしくなる。
きっと、咲いた花より、ずっと。
「ひとりで紅葉って、さみしさ増しますもんね」
小川さんはカツラの葉っぱを見て、私を思い浮かべてくれたのだろうか。
堪能する間もなく去っていたぬくもりが恥ずかしくて茶化してしまったから、もう聞けなくなった。
小川さんはかなり頑張ってくれたけれど、さすがに全部食べきることは無理だった。
「ミナツさん、このおにぎりって何合分ですか?」
「えっと、4合かな」
「俺ってそんなに大食漢に見えるのかなー?」
こころなしか膨らんだお腹をさするので、申し訳なく思う。
「足りたならいいんです。もともと多めに作ったので」
タッパーとおにぎりをバッグにしまうと、その持ち手を小川さんが掴んだ。
「これ、もらってもいいですか? 明日食べたいので」
「本当に大丈夫ですよ? 私が明日食べれば終わりますから」
引っ張ってみるけれど、小川さんが手を離す気配はない。
「俺に作ってくれたってことは、これは俺のものですよね。だからいただいて行きます。タッパーは洗って返しますから」
バッグを奪い去り、ではそろそろ行きましょうかと、運転席に戻るので、私はそれ以上何も言わせてもらえなかった。