きらり、きらり、
15:50。
携帯からバイブ音が響いた。
カーペットに音も振動も吸い込まれて、普段ならきっと聞こえなかったけれど、静かな部屋ではよく響いた。
『小川晴太』
表示された名前をじっと見ながら、出てしまいたい気持ちを押し殺して携帯を放り投げた。
もう上映は始まっている。
さすがの小川さんも異変を感じたようで、少し安心した。
来ないなら帰ろうと、そのまま放置されることも考えていたから。
バイブが止まって、部屋の中は再びファンヒーターと冷蔵庫の音しかしなくなった。
今なら郵便バイクの音もしっかり拾える。
いつの間にか青空は色味が薄く暗くなっていた。
じっと見ていたはずなのに気づかなかった。
部屋も隅の方には闇が忍び込んでいる。
そういえば、昨日は冬至だったっけ。
カボチャ食べ忘れたな。
昼間が短いと一日が短い。
クリスマスもすぐに終わってしまう。
15:55 小川晴太
16:00 小川晴太
16:05 小川晴太
16:10 小川晴太
きっちり5分ごとに小川さんから電話がくる。
部屋の中は薄暗く、レースのカーテン越しでは空さえ曖昧にしか見えない。
『すみません。今日は行けなくなりました』
電話は取ることなく、そんなメッセージだけ送信した。
『具合悪いんですか?』
小川さんからの返信はすぐに来た。
『いいえ。今日は用事ができました』
素っ気なく送りつけた文字は、白々しい嘘をつく。
面と向かっては言えない言葉も、ディスプレイには堂々と並んでいた。
『わかりました。こちらは大丈夫ですので、気にしないでください』
いつもと変わらないメッセージが、たまらなく悲しかった。