きらり、きらり、
郵便バイクの音は、不思議とわかる。
日が高くなってもベッドに入ったまま、腫れて重いまぶたを薄く開け、ぼんやりと部屋を眺めていた。
そんなとき、その音がはっきり聞こえてきたのだ。
感覚が一気に覚醒する。
アイドリングするエンジンの音を聞きながら身体を起こしたとき、玄関の外で物音がした。
部屋着を着てドアを開けると、そこに人の姿はなく、ドアの横に小さめの紙袋が置いてあった。
添えられていたポスト型のふせんメモを握りしめ、部屋の中を走ってベランダに飛び出す。
「小川さーーーん!」
雪は積もっていなかったけれど、出しっぱなしだったサンダルは素足に冷たかった。
だけど身を切るような冷気も、今は全然気にならない。
「小川さーーーん!」
走り出していた小川さんは、敷地を出るところで一度停まり、そこで私の声に気付いた。
振り返って私を見ると、バイクをくるりと回転させて窓の下まで戻ってくる。
「ミナツさん」
「待って! そこにいて! 今行きますから!」
床に転がっていたコートを羽織り、急いで階段を降りた。
握ったままのメモには『昨日渡せなかったので。いいクリスマスを』と書いてあった。
「小川さん!」
「おはようございます、ミナツさん。今日も寒いですね」
やっぱり変わらない笑顔だった。
「なんでですか?」
「何がですか?」
「なんでそんな平気な顔で笑っていられるんですか?」
ひどい格好だった。
メイクは崩れ去り、まぶたは腫れ、髪の毛はぐちゃぐちゃ。
家族にも見せたくないほどひどい格好だった。
小川さんはそれにも頓着せず、私の質問にきょとんとしている。
「『用事ができた』なんて嘘なのに。わかってるくせに。なんで何も言わないんですか?」
「じゃあ、理由を聞いてもいいですか?」
バイクのエンジンを止めて、小川さんは私の正面に立った。
「だって、」
昨日からの涙と怒りが堰を切ったように溢れ出た。
「だって小川さん、全っっ然会いたくなさそうなんだもん! いつでも『わかりました』ばっかりで、会えなくても残念がってくれなくて。小川さんにとって、私の存在ってそんなに軽いんですか?」