あけぞらのつき
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二人が放課後の公園にやってきたのは、そんな話しをするためではない。
小高い場所にある公園からは、入院患者の病室が見えた。
小野寺仰以を観察するためだ。
お見舞いと称して病室に行くのは容易だったが、ミサキは、病院に入ることすらできなかった。
怖いと、血の気の失せた青い顔で、彼女が言った。
怖いモノの気配がある、と。
遠野は病室を諦め、病院の前で立ち尽くすミサキを抱えるように、この公園へ連れてきたのだ。
無理をさせたつもりはなかったが、このことがアキの耳に入れば、また辞書のように分厚い書状が届くだろうかと、遠野は内心、ため息をついた。
だが、それは杞憂だったらしい。
ミサキは遠野の手から、しょうゆ味の握り飯を受け取ると、嬉しそうに相好を崩した。
子供みたいだと、遠野は思う。
生まれた時からヒトと関わることもなく、過保護すぎる守護者に育てられたせいなのか、ミサキ生来の性格なのか。
「それで、ミサキは病院で、何を見たんだ?」
ごちそうさまと、ミサキが手を合わせたタイミングで、遠野は尋ねた。
ミサキはアルミ箔の固まりを、ころころと手の中で弄んで、柳眉をしかめた。
二人の座っているベンチからは、ちょうど小野寺仰以の病室が見えた。
「死臭がする」
「え?」
「あそこからは、死んだ動物のニオいがする」
「ミサキは、それが怖かったのか?」
「死臭くらい、何でもない」
「だったら、どうして……」
あんなに怯えたりしたんだ。遠野はその言葉を飲み込んだ。
ミサキが目を細めて、小野寺の病室を見つめていた。
「死体が……動いているんだ」
「何だ、それは?」
ミサキは、帰るといって立ち上がった。
遠野は大げさなため息をついて、ミサキの後を追いかけた。