あけぞらのつき
***
古い映写機が、カタカタと回り始めた。
それでもスクリーンは、映像を映すわけでもなく、白く発光しているだけだ。
ミサキは、小さなシアターで一人きり、膝を抱えるように、狭いシートに収まっていた。
病院にいた小野寺は、人間ではないように見えた。
朽ち果てて虫のわいた、死体だ。
腐臭すら漂ってきそうな小野寺に、周囲の人間は、誰も気付いていないようだった。
そして……。
思い出したくもない、あの気配。あれは。
スクリーンに影が映り込んだ。
ひっと喉の奥で小さく悲鳴を上げて、ミサキは顔を伏せた。
記憶の再生は、いつも無作為だ。
「大丈夫。ここには、入れない」
ミサキは顔を伏せたまま、呪文のように繰り返した。
スクリーンに映った影は、うろうろと何かを探しているようだったが、やがて小さくなり、溶けるように消えた。
心臓が、痛いほどに脈打っていた。
アキは……。今日は来ないのだろうか。
ミサキは小さな膝小僧に、柔らかい頬を乗せ、うつらうつらと微睡んだ。
***
「ようやく」
舞台の袖から、クチナシの甘い香りが漂った。長身の人影は二名。
ミサキが眠りにつくのを、隠れて待っていたようだ。
「おかわいそうに」
足音を立てないように気配を殺しながら、アキはミサキの隣へ腰を下ろした。
覗いた寝顔には、涙の跡が残っている。
「遠野の御曹司は、鬼か?」
「ミサキが大人になりきれないのは、守護殿が甘やかすせいだろう」