あけぞらのつき
「死人(しびと)の思念のようなモノが、体を動かしているのかも知れない」
「思念?」
「例えの話しです。主様がご覧になったものと、御曹司が見たモノが違うとするなら、それは、二つあったと考える方が自然です」
「小野寺の体に、二つのタマシイが入っているということか?」
「それなら、主様にもそう見えるでしょう。わたくしは、何かの理由でタマシイの抜けた生きている体に、ケガレたタマシイが紛れ込んだのではないかと」
「では、小野寺のタマシイはどこに?」
「さあ」
アキは興味のない返事をして、ミサキの黒髪を撫でた。その拍子に、瞼に溜まっていた涙がこぼれた。
アキは、我慢できない様子で立ち上がり、ミサキを抱き上げた。
小さな子供をあやすように、軽く揺すりながら、優しい手つきで背中をたたく。
重症だなと遠野が呟いた。
古い映写機が、ゆっくりと音を立てて回り始めた。
孤高の眠り姫が、双眸を開いた。
***
うつろな眼差しを二度三度と瞬いて、ミサキはアキの腕の中で目を覚ました。
いや。
浅い眠りに切り替わったと言うべきか。本体はまだ眠っている。
映写機は今にも止まってしまいそうな程にゆっくりと回転していた。
「主様」
アキが、香りと同じ甘く透き通った声で、ミサキを呼んだ。
「アキ……」
「起こしてしまいましたか?申し訳ありません」
「うん……」
ミサキは寝ぼけたような返事をして、アキの胸に頬を押しつけた。
「怖い夢を見たんだ。アキが……」
「はい」
「アキが、そばにいないせいで」
アキはもう一度、申し訳ありませんと言い、ミサキの背を抱きしめた。
そんな二人に呆れた視線を送って、遠野は重症だなとため息をついた。