あけぞらのつき


***

「茅花(つばな)……」


ミサキの目から、涙がこぼれた。



「どうして……茅花、どうして……」



「ミサキ?」


白藍はいぶかしげに、主人の顔を覗いた。



「茅花」


ミサキはもう一度名を呼んで、普段に似ず荒々しい仕草で、ふすまを開け放った。


不意を突かれたメイドが、悲鳴を上げた。

料理番が、「誰!?」と鋭い声を発した。



「嬢……ちゃま?」


料理番は、ランタンを掲げて、侵入者に問いかけた。


「嬢ちゃま、なの……?」


ミサキは料理番に答えず、ふすまに手をかけたまま、ベッドの少女を見つめていた。

その目に浮かぶ光は、白藍の知るミサキではない。


肩で荒く息をつき、ミサキは箱膳を蹴飛ばして、ベッドの少女を掻き抱いた。



「茅花。茅花。今度こそオレと……。オレと生きよう」


人形のような少女の、紅い唇が、微かに動いた。



「スイ様?」


それは、彼女が再び、時を刻んだ瞬間だった。



ミサキは彼女の体を抱きしめたまま、眠るように気を失った。


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