2番目に君を、愛してる。

「櫻井は異性からダントツの人気で社内の大半が狙ってた。けれど彼氏がいた。新藤 和樹(しんどう かずき)という奴で、仕事もよくできるし人柄も良い奴だった。…まぁお似合いだったわけだ。けれど俺は見てしまったんだよ、取引先のお嬢さんと新藤が抱き合っているところを」


「…浮気?」


「浮気だと思った。だから俺はあの日、目撃したままを櫻井に伝えた。櫻井は新藤に確かめると言って去ったが、しばらくしてもオフィスに戻って来ず、話がこじれていたら面倒だと思って俺は2人を探したんだ。そして屋上で、新藤が飛び降りる瞬間を見たーーいいや、新藤が飛び降りたように見えただけで真相は、別れ話を切り出された櫻井が飛び降りようとしていたんだ。それを止めようとして、反対に、新藤が落下した」


「え、待って。どういうこと?」


最後の方がよく分からない。
それってーー


「櫻井が柵を飛び越えて飛び降りようとしたところを、全力で新藤は止めようとした。ひどい興奮状態だった櫻井は新藤から逃れようとして暴れ、足元がふらついてーー新藤は咄嗟に彼女を庇い、自らが落ちることになったんだ」


別れ話を切り出され、自殺をしようとして、反対に助けられた?



「俺が余計なことを言わなければ、2人はあんなことにならなかった。タイミングが違えば、屋上に行くこともなくーー」


言葉に詰まる兄に抱き着く。



「お兄ちゃんのせいじゃないよ」



会社に兄の居場所を聞いたところ、退職願が提出されていると知った。
自分を責めて逃げ出すことしかできなかったのだろう。


「お兄ちゃんは何も悪くないよ」



運命の歯車が残酷に絡み合った先に、私と新藤さんは出逢ってしまったのだ。

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