大江戸ロミオ&ジュリエット

しかし、父亡き後、かようなことは云うておれなくなった。正式に家督を継いだ兄に負担をかけぬことは、即ち御家(おいえ)を守ることであった。

尚之介の心に、年端も行かぬ少年の頃より見続けてきた、朋輩(ほうはい)の妹の顔がよぎる。

与力の娘だった。もう手が届かなくなる。

……何のために、これまで必死の思いで、剣にも学にも精進して参ったのか。

だが、武家に生まれた者にとって「御家を守る」ことは、骨の髄まで染み込んでいた。

上條 尚之介はとうとう首を縦に振った。


そして……

北町奉行所 隠密廻(おんみつまわ)り同心 島村 尚之介になった。

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