大江戸ロミオ&ジュリエット

本来であらば、相手を迎え入れる側の屋敷で祝言を挙げるものであるが、此度(こたび)は南北それぞれの奉行所の威信をかけた縁組のため、相手を迎え入れる側の「奉行所」で執り行われることとなった。

つまり、南町奉行所の敷地内にある「南町奉行の屋敷」である。

南町奉行所は当然、北町奉行所よりも南側にあり、千代田のお城(江戸城)から見ると(南東)の方角(現在の有楽町付近)にあった。

そこに勤める与力や同心たちが居を構えているのは、少し離れた八丁堀(はっちょぼり)(現在の兜町・茅場町付近)の一角にある南町組屋敷で、そこに花婿の父である松波 源兵衛の家もあった。

つまり、北町と南町の組屋敷に行き来はないにせよ、同じ八丁堀の目と鼻の先にあったにもかかわらず、互いの譲れぬ見栄と矜恃によって、金襴緞子(きんらんどんす)の帯を締めた花嫁御寮の志鶴は、わざわざ籠に乗って南町奉行所まで出向くこととなったのである。

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