大江戸ロミオ&ジュリエット
「さりとてっ……父上っ」
なおも、多聞は喰い下った。
……おさよと約束したのだ。
必ず迎えに行くから、待ってろよ、と。
そのとき、源兵衛の顔色が変わった。
「たわけっ、多聞、くどいわっ、
いい加減、目を覚まさんかっ」
容赦のない屹然とした声が部屋を響かせた。
「しばし、頭を冷やせ。
……おまえに蟄居を命ず」
有無も云わさぬ、一族郎党を預かる惣領の声だった。直ちに、座敷の外に控えている奉公人に合図した。
「お…おまえら……なにをするっ……無礼者っ……放さぬかっ」
たちまち、駆け寄ってきた中間たちに多聞は抑え込まれた。
「ち…父上っ、刻がありませぬっ。どうか、お解き放ちをっ」
多聞は必死で手足を動かしてもがいたが、多勢に無勢でどうすることもできなかった。