大江戸ロミオ&ジュリエット

「さすれば、なにゆえ松波の家に戻らぬのじゃ。
さばかりか、向こうに黙っておくとは如何(いか)なる所以(ゆえん)じゃ」

彦左衛門が怪訝な顔をする。無理もない。

「……申し訳ありませぬ」

志鶴は家族に向かって、只々(ただただ)平伏した。

「志鶴……もしかして、おまえは松波の子を産むのが本意ではないのではあるまいか」

帯刀が志鶴を(おもんぱか)るように尋ねる。

「もし、さようであらば松波と離縁し、生まれた子は里子に出して、今度はおまえが望む家に再嫁(さいか)してもよいのだぞ」

志鶴は目を見開いた。

「と…とんでもないことでござりまするっ」

咄嗟(とっさ)に腹の中の子をかき(いだ)くように、我が身をぎゅーっと抱きしめた。

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